金融経済研究所

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レポート

Report No.017

バーナンキ先生さようなら

2014/02/04

もう二月の二日、日曜日。土曜日から日曜日は本が読める日だ。昨夜から今朝にかけて、あらためてアラン・グリーンスパンの『波乱の時代』(日本経済新聞出版社、2007年)を読み直してみた。上下2巻の大作だ。

今頃なぜ本棚からこの本を取り出して読み直したかと言えば、先週でバーナンキFRB議長が去っていったからだ。FRB議長はその強大な権力(おカネを支配する)を持って時代の流れを作り出す。退任後は、任期中のことを回想録として本に書く。金融関係者には必読書となりベストセラーになる。

グリーンスパンは「波乱の時代」に生きた。今はコンサル会社を立ち上げて数社の顧問をやっているという。昔のように多くの顧客を抱ええたり、人を使ったりする気は毛頭ない。細かな管理業務は好きでないし、そうしたことに時間を費やしたくないからだ、と言う。

『波乱の時代』の最終章では、今後数十年先の主要国と世界の動向を書いている。民主社会と市場経済はこれからも基本的な支柱としながら、時には手ひどい痛みを人類は克服しながら成長していくと言っている。そして、主要国の将来を一つ一つコメントしながら、中国については、「世界経済におけるアメリカのリーダーシップを脅かす存在として最後に残るのが、2030年に最大のライバルとなる中国」と当時既に自信をもって言い切っている。

そして、「2030年の世界像は、かなりの部分、中国が自由市場資本主義への道を邁進し続けるのであれば、世界を新たな繁栄の段階に押し上げる』という。日本については人口減と厳しい移民規制の現実を語りながら、2030年になる前に、日本は世界第二位の経済大国という地位を失うという大方の予想(現実化したが)、日本人はその結果に満足するとは思わないという。対抗策を講じて、日本は豊かで、技術と金融の両面で有力な存在であり続けるだろう、と書いている。

確かに、三本の矢で登場したアベノミクスは「対抗策」の一つとして漸く20年間籠り続けた日本経済に火をつけたようだ。世界の金融を動かしてきた人物の見方は鋭い。

さて、ヘリコプターからドル札をばら撒くバーナンキと揶揄された前FRB議長は「何の時代に生きた」と書くのだろう。回想録に興味深々だ。

小説の登場人物チップス先生も生徒には人気があったが、頭の固い大人たちや学校組織からは煙たがられたものだった。教育方法の対立。どこでも似たような話はあるもの。バーナンキ先生も貶されたり褒められたり難しい時代を生き抜いた。最後はアメリカ経済の先に漸く光をかざしてくれたが、新興国諸国には当初希望を与え、最後にショックを与えてFRBを去っていった。もっともバーナンキ議長の役目は、リーマンショックで落ち込んだアメリカ経済を蘇生させることであって、新興市場諸国を活性させる義務は元々なかった筈だが、今や金融という水脈、とりわけ米国ドルはリターンを求めて市場に流れ込み、市場から流れ出ていく。

コラムニストのHugo DixonはBernanke comes out a bit ahead.と書いていた。バーナンキの置き土産はプラスとマイナス両方あるとはいうものの、ちょっとだけプラスだったと渋いコメントをしていた。アメリカの産業と金融を救い、就業率を高めたという意味では満点をあげてもいいほどだ。恐慌研究の世界的権威が荒野に現れ、1930年代のような長い不況からアメリカだけでなく世界を守ってくれたのだから。あとは、時間の経過、すなわち歴史が評価してくれる。

FRB議長が変わる度に大きな事変が起きるものだ。今回も金融緩和を徐々に縮小していくと発言し実行しているだけで、為替市場は大きく変動し株式市場は激しく乱高下している。確かに膨らんだドル紙幣をインフレに火をつけないで経済成長をどう繋いでいくかは、次の議長ジャネット・イエレンへの大きな宿題となったということになる。

『チップス先生さようなら』もチップス先生の回想録。学校をやめた後も通りすぎる生徒達の顔や名前を覚えたり、たまにはお茶に招待したりされたりしたものだ。バーナンキ先生も、もうお札をばらまくことはしなくなるのは寂しいことだが(退任直前に、ばらまいたおカネを少しずつ返してもらうと宣言して、株式市場に冷や水をかけたようだが)、漸く回復してきたアメリカ経済の現場にやって来て声をかけてくれるに違いない。勿論、世界にも。

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