金融経済研究所

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レポート

Report No.20

野麦峠の経済学

2017/02/27

アベノミクスは大失敗だという経済学者や評論家が多い。失敗説を唱える人は大雑把に分けて2つのグループに分けられる。グループ(1)は、金融を超緩和してもインフレ率(消費者物価指数)は政策目標の2%には達しないではないか。グループ(2)は金融緩和しても景気はよくならないどころか、将来に大きな国の借金を残して一向に減る動きはないではないか。

一方、アメリカの景気は順調に回復しているようだ。個人消費も上向いている(日本では依然鈍い)。

そもそも、金融の超緩和政策は主にアメリカの処方箋を導入したものだ。アメリカの経済学者の中で、とりわけノーベル経済学賞のポール・クルーグマンの影響は大きい。彼はいろいろ試行錯誤を重ねたあと、金融政策、財政政策を全開すべし、と主張するようになった。

日銀は黒田総裁になって、ゼロ金利政策と大規模金融緩和を実行、その一環として、マイナス金利を導入して1年を経過した。

安倍首相のブレーンである米エール大学の浜田宏一エール大学名誉教授は金融緩和が効かなくなってきたと、今年に入って財政支出の助けが必要と主張するようになった。

最近来日したノーベル賞学者である米プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授は「シムズ理論」を唱えて、財政再建は当面棚上げすべきと主張している。「物価水準の財政理論(FTPL)」というのが正式名称だが、日本に当てはめて簡単に言えば、日銀のマイナス金利政策では、金利がゼロ近辺になると、日銀の政策では物価を動かすことは難しくなる。その弊害を取り除くには、財政悪化を容認して財政支出を増やすべきと主張する。日本財務省は消費税増税を前提に日銀の大規模金融緩和を認めてきた。シムズ理論では、国の借金は増税で返済するのではなく、インフレで目減りさせることにあるから、増税はしないという大前提がある。

インフレ期待というわけだから、日銀の異次元緩和と共通する部分がある。もっとも、日銀のその政策が想定した効果を出していないのが気になる。シムズ理論では野放図な歳出膨張となり、最後は増税で対応せざるを得ないとならないか、という疑心暗鬼が出てくると、個人消費はさらに奥に退却してしまうかもしれない。

2008年以降の経済政策論争から、そして実際の経済回復の処方箋で登場してくるのは、アメリカで発展展開された経済理論である。そうした経済理論の発端は、与えられた一定の経済基盤を基礎にして築き上げられるものである。アメリカで発展した経済理論は、アメリカの経済基盤をもとにして作られるものである。そうした経済理論は研究をもちろん怠るべきではないが、日本には日本の事情があるわけで、それを軽んじた経済理論や政策は効果が実現できないだけでなく悪質な病弊を残すことになりかねない。

昭和40年代前半までの高度成長時代を正確に見通した下村治、高橋亀吉は、40年代半ば頃から「日本経済が壮年期に達した」と高度成長論と訣別し、経済の構造的変化を認識し低成長時代の到来を主張した。そういう経済学者が今こそ望まれる。

明治から大正にかけて、豊富な水のある諏訪と山深い飛騨との間にある野麦峠は経済通路であった。飛騨からこの峠を超えて諏訪、岡谷の生糸工場に出稼ぎに出た女工さんたちが多い時には千人近くもいたという。彼女たちは百円工女になることが夢だった。

当時百円もあれば家一軒が建てられた。年の暮れ、雪深い峠を娘さんたちが持ち帰る賃金は村の経済を潤したし、工場から輸出された生糸は当時の日本経済の輸出の三分の一を占める外貨獲得の柱であった。 しかし、この野麦峠は雪深い冬は越えるには難所であった。ここを超えられるか否かは村の経済が潤うか否か重要な地点であった。

経済の“野麦峠“はその規模が大きく複雑になるにつれ探し出し観察することが難しくなってきているのだが、経済学徒にとってそこに妙味があるというものだ。

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